2020年10月1日木曜日

『愛』

ジュール・ミシュレ  森井真訳  中公公論社1981年

  最初にジュール・ミシュレの『愛』を紹介したいと思う。歴史家のミシュレが愛を俯瞰して、神の目線から書いた作品ではないかと想像する。この作品は、現代では読むのが苦しい。なぜなら「男に守られ、食わせてもらうかわりに、女は愛をもって男を養うのである」という一文が表すように、この作品そのものが時代錯誤だからである。さらには「《女とは何か。それは病気である》(ヒッポクラテス)-男とは何か。それは医者である」という言葉は、実に見事に的をついたものであるが、現代は女性にとって医者になりうる男は皆無の状態ではないだろうか。そして、この表現でいうなら現代は、女医のほうが多いように感じる。

  ここまでで察していただけるのではないかと思われるが、この作品は「守るべきか弱い女性」と「守るものを得た強き男性」を生物学・社会学の角度から、微細に分析している。その全てを《愛》という言葉を用いて、甘く優しく語っているのである。歴史家には「原物」を見る目があるが、ここにはミシュレが見つけた「女性の原物」が溢れている。

  「若者よ、私が書いていることを、独りだけでちゃんと読みなさい」と筆者が伝えているように、結婚を目前にした男性にはお勧めである。ミシュレの視点で女性を考えることで、納得できる彼女の言動がきっとあるはず …… どうか神の祝福あれ。